作業療法士の入学試験や採用試験の際、面接や作文で『どんな作業療法士になりたいか』と聞かれることは多いと思います。
明確な理由がある方は答えに困ることはないと思いますが、なんとなく・・・という理由で作業療法士を目指そうと思った方や、本当の理由を話しにくい方・話したくない方にとっては、非常に答えにくい質問ですね。
そこで今回は、私が実際の採用試験の面接で答えた内容を、お伝えしたいと思います。
採用試験でよく効かれる面接の質問【どんな作業療法士になりたいか】

ずばり、私の答えはこうでした。
「目の前にいる患者さんを患者さんとして見る前に、一人の人格ある人間として理解し、尊重した関わり方ができる作業療法士になりたい。」
いかがですか?
正直、この答えを聞いて『よくもまぁそんな綺麗事を・・・』と思った方もいるのではないでしょうか?
綺麗事でもなんでもいいんです!合格さえすれば!
ただ、これだけではもちろん、説得力がありません。
なので、面接時はこう考えるきっかけとなったエピソードについても、合わせて話をしました。
次の項で、そのエピソードについて詳しくご紹介したいと思います。
とある患者さんとの出会い

私が先程のように考えるようになったのは、臨床実習先で出会った作業療法士と、ある患者さんとの関わりを目の当たりにしたからです。
ある日、失語症(上手く言葉が話せない)の男性患者さんが作業療法室にやってきました。
身体には麻痺があり、右手が思うように動かせません。
その日のリハビリでも、右手で一生懸命タオルを握ったり、ブロックを積み上げたりと、色々な訓練に取り組んでいました。
すると突然、右手を机にドンドンと激しく叩きつけ始めました。
普段は真面目で、穏やかな患者さんの初めての姿に、当時学生だった私は衝撃を受けました。近くで付き添っていた家族も、戸惑っていました。
思い通りに動かない自分の右手に苛立ち、そんな自分の姿が情けなく感じられたんだと思います。また、失語症があるため、その想いを言葉にして、上手く吐き出すことさえできません。
そこで、作業療法士の先生が取った行動は、叩きつけていた右手をそっと両手で握りしめ、じっと目を見つめて、「辛いですね。しんどいですよね。本当に、よく頑張っておられます。」と共感の言葉を投げかけました。
すると、患者さんはそこから大声で泣きし始めました。
気持ちに寄り添ってもらえたこと、励ましてもらえたこと、認めてもらえたことが、嬉しかったのだと思います。
このエピソードから学んだ2つのこと

私はこのエピソードから2つの大切なことを学びました。
1つ目は、どの患者さんも、一人の人間であるということ。
こう聞くと当たり前のように思うかもしれませんが、いざ臨床現場に出て働くと、ついつい忘れてしまいがちです。
どの患者さんも、これまではごく普通に生活していた方ばかりです。
仕事や趣味などにいそしみ、人生を楽しく過ごしていた事と思います。
その当たり前の日々が、ある日突然病気によって奪われ、昨日まで当たり前にできていたことができなくなった絶望感は、経験したことのない人には計り知れません。
計り知れないからこそ、最大限に想像力を働かせ、相手の想いを汲み取る必要があります。
この患者さんのように上手く話せなくても、自分自身の想いはしっかりとあります。
2つ目は、作業療法士にとって大切なことは、常に相手を思いやり、尊重することであるということ。
臨床実習中に出会う患者さん、作業療法士になってから出会う患者さん、いずれにしても私達は患者さんになってからの患者さんの姿しか知らないので、相手の想いを置き去りにして、ついつい熱心に指導しすぎてしまったり、頑張らせすぎてしまったり、不用意な言葉で傷つけてしまうことがあります。
もちろん、作業療法士としての知識や技術を活かし、最大限の治療効果を発揮することは重要です。
しかし、それ以前に、本人が前向きに意欲的に取り組めなければ、意味がありません。
相手を尊重するということは、本人の想いをしっかりと受け止めながら、決して否定することなく、寄り添うということです。
このことは絶対に忘れてはいけません。
最後に
いかがでしょうか?
このように、作業療法士にまつわる印象的なエピソードをお持ちの方は、そこから面接や作文の答えを導き出すのが最も説得力があり、自分自身も答えやすいでしょう。
もしそのようなエピソードをお持ちでない方は、私の話をご自身なりにアレンジして、用いて頂いても構いません。
いずれにせよ、これから作業療法士を目指す方、あるいは、これから作業療法士として働こうとしている方には、ぜひ相手を一人の人間として尊重した関わりを大切にしてほしいです。
今回はあくまで面接や作文で聞かれた際の答えとして紹介しましたが、必ず臨床現場に出てからも役に立つでしょう。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
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